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April 22, 2006

●Mark O'Connor: Markology

MarkO'connor_Markology.jpg

Mark O'Connor (g)
David Grisman (mandolin)
Tony Rice (g)
Bill Amatneek (b)
Sam Bush (mandolin)
Dan Crary (g)

 ギターが主役の音楽でも、ほとんど聴かずに来たジャンルがブルーグラスである。定番のドク・ワトソンやトニー・ライスなどは聴くことは聴いたのだが、どうも自分の中に響いてくるものを感じなかったからだ。ギタリストにはテクニシャンがそろい、早弾きもある。普通であれば、飛びつくようなものなのだが・・・。

 マーク・オコナーは実は、フィドル(ヴァイオリン)のトップ・プレイヤーである。しかし、私が彼の名前を聞いたのは、ギタリストとしての評判が最初だった。私が修行をしたギター製作家Ervin Somogyi氏のギターを使ったこともあるという話しだった。Ervinのギターは、その豊かな倍音と繊細な響きから、フィンガースタイルと呼ばれる指弾きのインスト曲を演奏するプレイヤーが愛用するケースが多い。フラット・ピッキングで、それもハードなタッチで弾くブルーグラスのプレイヤーがどのように使いこなしているか、興味津々だったのだ。CDショップを回って手に入れた最初のアルバムが、『Stone from Which the Arch Was Made』。家に帰って、プレイヤーにかけてみてビックリ。前面に出ているのはフィドルだ。改めてライナーをチェックすると、マーク・オコナー(フィドル)とあるではないか。おまけに曲はコンテンポラリ・ブルーグラスというさらに馴染みのないスタイル。すっかり当てが外れた気分になってしまった。(注:Ervinによると、このアルバムのレコーディングで彼のギターを使用していたということなので、近いうちにこのアルバムもじっくり聴き直してみたい。.)

 ギター製作の修行でアメリカに滞在中、休みの日曜には車で10分くらいのバークレーの中心街に出るのがいつものことだった。そこで、中古CD屋と古本屋を回りながら、気に入ったものを探すのが、なんとも楽しい時間なのである。そのとき見つけたのがこのアルバム。ジャケットにもギターの絵があるので、これこそが、求めていたギター・アルバムに違いないと買って帰った。工房の戻り、さっそく聞いてい見ると、のっけからはじけるようなギターの音。当たりだ。
 このアルバムが録音された頃、マンドリンのデヴィッド・グリスマンはDAWGという新しい音楽のスタイルを作りつつあった。従来のブルーグラスにフォークやジャズを融合させたものである。当然、本作にもその影響がおよび、マークの弾くリードラインはストレートなブルーグラスのフレーズとはまったく違い、ジャズテイストが色濃い。これが、「いい!」と思った一番の要因であろう。ストレートアヘッドなブルーグラス・アルバムとはいえないかもしれないが、私にとっては一押しのギター演奏である。

 このweblogのために、ジャケット写真を探して初めて気がついたこと。手元にあるアルバムにはマークのサインが入っていたのである。ジャケットデザインにある、ギターの輪郭線と、文字のペンによる線がほとんど同じだったので、てっきりこういうデザインのものだと思っていたのだが・・・。1978年のレコーディングは、バークレーでおこなわれたとクレジットされているので、中古CD屋に彼のサインアルバムがあっても不思議ではないのかもしれない。とはいえ、買ったのは録音されてから20年以上経ってからではあったが。

 天才フィドルプレイヤーとして登場して、最初のアルバムを録音したのが、12歳のとき。1961年生まれの彼が、本作を録音したときは、まだ16歳。その、恐ろしいまでの才能には、ただただ脱帽である。いい演奏に年齢は関係ない。

コメント

毎日、更新されてますね!
このアルバム、僕もよく聴きました。確か高一くらいの頃ですね。
その前の年くらいにNHKで『ロデオとヴァィオリン』というマーク(当時11~14才?まだまだ幼かったです)を取り上げたドキュメント番組があって、それをたまたま観ました。その中でマークがフィドルの耳コピをしているところや、フェスでフェィヴァリット・ミュージシャンから白いフィドル(ファンの間では有名なたくさんのサインが書かれたもの)にサインを貰っているところが映し出されていました。
耳コピ時の音の完璧さに、ビックリしていたのですが、もっと驚いたのはその後!
「マークくんはギターもとても上手なのです」とか何とかナレーションが入って、マークがバック・ヤードのような芝生の上でギターを弾き始めたのですが・・・。
当時、中学校のフォーク仲間内ではそこそこ上手いと思われていた僕は、
「へ~、ギターも弾くんだこの坊や、どれどれ」と眺めていました。
マーク少年がギターを弾き始めた途端!
「何コレ~~~!!!」と正にアゴが外れました。
すさまじいクロス・ピッキングと縦横無尽に指番全体を駆け回る指!オールド・マーチンの低音をゴリゴリ云わせたホット・リックの数々!その成熟したプレイ&音楽と彼のあどけない姿が非常にアンバランスで、それも凄いインパクトでした。
それまで観たことも聴いたこともない演奏でした。
エレキの早弾きは何度も観てましたが、アコギでこんなのできんの~!?って感じでした。
エレキと「ダイナミクス」がケタ違いなので迫力が違いました。
後から思い返すと、その時に演奏していたのが、このアルバムの1曲目「マークス?・ブレイクダウン」でした。
(この後のアルバムでこの曲のライヴ・ヴァージョンがあって、そこでも凄まじいプレイをしています)
2曲目のイントロ部分(バラード・パート)をコピーして、「へ~、こんなコードあんだ~」と思ったのも遠い昔の良い思い出です。
長年活動して多作なマークですが、その音楽的な変遷も歴史を感じられて面白いですね。
「ミッドナイト・オン・ザ・ウォーター」というアルバムもよく聴きました。
ほとんどがパガニーニなどを弾いたヴァイオリンのソロなのですが、数曲あるギターのソロ曲がとてもカッコいいんです。


>けつのりさん
いらっしゃいませ。
なるべく毎日更新したいと思っていますが、忙しい日は無理かもしれません。まぁ、できる範囲で長く続けるようにしたいです。

このアルバムは、よく聴いていたのですが、改めて16歳のときの録音と知ってビックリです。ビレリ・ラグレンが10代前半で、バリバリのジャンゴスタイルで弾きまくっていたのにも驚きましたが、マークの演奏は、どう聴いても大人じゃないと出てこないようなフレーズに思えます。

フィドルとギター、ここまでしっかり二足のわらじを履くのもすごいですね。

Stephane Grappelli and David Grisman Live

マーク・オコナーがSomogyiを弾いているアルバムは上のものです。
中ジャケにギターを抱えるマークが写っています。
グラッペリ、グリスマンとの共演ライブ。

> その前の年くらいにNHKで『ロデオとヴァィオリン』というマーク(当時11~14才?まだまだ幼かったです)を取り上げたドキュメント番組があって

そんな番組があったんですね。
マーク少年のテレビ出演らしき写真がいくつかあるのですが、このときのものなのでしょうね。
貴重な情報、ありがとうございます。

実際、マーク・オコナーのこのアルバムでのプレイは恐ろしいものです。
コピーして音がとれても同じようには弾けない(当たり前か)。
ツブのそろったピッキング、滑らかな左手の運指──、チョーキングも当然のようにしてますが、そのスピード感と音程の正確さも強力です。

アルバム1曲目は「ディキシーブレイクダウン」ではなかったかな? 
バンジョーの定番曲ですが、これをギターで弾ききった演奏はこのマーク少年の演奏だけのようです。

マーク・オコナーは、今やアメリカを代表するフィドラーですね(オリンピック開会式でも弾いていた)。
最近の活動はヨーヨー・マなどと組んでクラシカルな演奏が中心ですが、その中でもノリのいいマークのプレイは目を引きます。
映画「ミュージック・フロム・ザ・ハート」でもテキサスフィドルを弾きまくっていました。

グリスマン・バンドではダロル・アンガーというフィドラーの名手がいたので、マークはギタリストに徹していました。
そのときのステージ映像では確かにSomogyiを弾いています。とても10代とは思えない堂々としたプレイぶりで、ブルーグラスファンの間では、その異常なほどのカッコよさが常に話題になります。

ギターの話で言えば、マーク自身はステージではほとんどヴィンティジマーティンは弾いてなかったようで(レコーディング専用?)、Somogyiの他にはHeidenも気に入っていたようです。
ちなみに、このアルバムのLPのときのジャケット写真はヴィンティジマーティンを2台並べてほほえむマーク少年の顔です。
CDのジャケット絵は意味がわからないので、ブルーグラスファンの間ではすこぶる不評です。

>Nozomiさん
いらっしゃいませ。
的確なコメント、ありがとうございます。さすがにNozomiさんの独壇場というところだと思います。
Ervinのサイトでチェックすると、マークについては
"Live with Stephane Grapelli and David Grisman"
"False Dawn"
"Stone From Which the Arch Was Made"
の3枚が、彼のギターを使った録音として紹介されています。紹介してもらったものは聴いたことがなかったので、さっそく入手してみたいと思います。

ちなみにMarkologyの1曲目は"Dixie Breakdown"です。ご参考まで。

"Markology" というタイトルは、ジャンゴ・ラインハルトの "Djangology" にちなんだものでしょうね。
とはいえ、ジャンゴの曲を弾いているのではありませんが……。

Grappelli、Grisman とのライブはアコースティックの音で、オススメです。
マーク・オコナーのギターのすごさはその音色でしょうか。どんなに速く弾いても輝くような音色は変わりません。
ブルーグラスミュージシャンにはよくあることなのですが、マークもマルチプレイヤーで、マンドリンも猛烈なうまさです。来日したときはマンドリンをよく弾いていました(1980年代だったか)。

"Dixie Breakdown" は確かにライブの録音もあります。ノリは "Markolgy" のプレイのほうがいいですけどね。

ブルーグラスギターと言えば、
Clarence White
Doc Watson
Tony Rice
あたりを基本として──

Russ Barenberg
David Grier
Tim Safford
などが好みです。

若手ナンバーワンとしては──
Bryan Sutton
という超名手がいます。
Bryan は、ジャンゴ曲も難なく弾く新世代の旗手です。うまさという意味では飛びぬけた存在です。

>Nozomiさん
いらっしゃいませ。

基本としてあげているプレイヤーのものはいくつか聴きましたが、あまりピンとくるものは無かったのが正直な感想です。誤解を恐れずいえば、コード進行がシンプルで、それにのっているスケールがあまりにもズバリといった感じが、好みではなかったのかもしれません。Cのコードで、ドレミファ・・・の音階をそのまま使っているという印象です。
でも、ドクの「ブラック・マウンテン・ラグ」などは、フラットピッキングの練習でよくやりました。結局うまく弾けませんでしたが・・・。

ブルーグラスとジャンゴというのは、あまり繋がらないように思っていたのですが、両方のスタイルを演奏する人は、思いのほか多いようですね。日本では有田さんもその一人でしょう。

ラス・バレンバーグは小松原俊さんがお気に入りのギタリストということで教えてくれましたが、まだ聞いたことがありません。

いずれ、ブルーグラスにも手を出したいとは思っていますので、そのときはご指南くださいね。

ブルーグラスとジャンゴをつなぐのが誰あろう
David Grisman なんです。
それも、ギターの Tony Rice、フィドルの Darol Anger がいればこそ、なのですが……。

ブルーグラスのピッキングテクニックを応用してマイナーの曲を弾いたのが Grisman 一派。
その根本にはクレズマー(ユダヤ音楽)がありました。

「コード進行がシンプルで、それにのっているスケールがあまりにもズバリといった感じが」──というのは正解です。
ブルーグラス好きの人はこれが好きなんですね。その証拠にブルーグラス好きには4ビートのジャズを嫌う人が多い。
ジャンゴは2ビートですから、スタイルとしてはブルーグラスに通じるものが元々あるんですね。

Doc Watson は確かにシンプルなフレーズが多いのですが、Clarence White と Tony Rice はジャズの素養を背景に、リズムのノリもシンコペーションが多く、今聞いても斬新です。
Tony Rice は Wes Montgomery の曲も弾いたりしてます。

このあたりの雰囲気のものでどれか1枚と言われれば──
Tony Rice "Backwaters"
でしょう。
ジャズのスタンダード曲もやってます。

まちがい訂正
Tim Safford

Tim Stafford

失礼しました。

>Nozomiさん
いらっしゃいませ。
以前、ジプシー音楽の系譜をたどるドキュメンタリー映画で、インドからイスラエル(ユダヤ)のクレズマー、ルーマニアからフランスのジプシージャズ、さらにはフラメンコという流れを見ました。その観点から、アメリカというのは離れた存在だったのですが、デヴィッド・グリスマンがその架け橋になり、アメリカの音楽と結び付けたというのは面白いですね。

トニー・ライスとノーマン・ブレイクのき共演アルバムを聞くと、ノーマンはブルーグラスそのものなのに対し、トニーは時折フラットナインスコードなどを交え、ジャズ的なアプローチを感じます。同じブルーグラスの中でも、微妙な温度差があるのは面白いですね。

Norman Blake はブルーグラスミュージシャンではないんですね。オールドタイムのミュージシャンです。奥方との共演で何枚かアルバムがあります。
ギターがうますぎるので、ブルーグラス曲を演奏したり、Tony Rice との共演アルバムがあったりしますが、ブルーグラスのフォーマット(banjo+mandolin+fiddle+bass)でのレコーディングは確かなかったはず。
Tony Rice のセンスは1970年代から光っていました。ジャズのセンスもさることながら、音を微妙に残して不協和音で緊張感を保つテクニックは驚異的でした。Grisman との共演ではそのテクニックが存分に発揮されています。
Grismanのバンドを離れてから同じようなフォーマット(banjo 抜きのブルーグラスフォーマット)で自分のバンドを率いていました。

Mark O'Connor のギターも、明らかに Tony RIce の影響を感じさせるもので、さらにそれをスマートに発展させた雰囲気があります。
最近、ギタリストの Mark O'Connor が見られなくなったのは、まことに残念です。

>Nozomiさん
いらっしゃいませ。

なるほど、ブルーグラスプレイヤーというには、きちんとしたフォーマットで演奏している必要があるのですね。確かに、ノーマン・ブレイクの演奏で聞いたことがあるものにはバンジョー・マンドリンとフィドルが入っているものは無かったような気がします。元奥さん(確か離婚してしまったはずです)のナンシーもギタープレイヤーなのですよね。共演しているというのは知っていましたが、演奏は聞いたことがありません。

マークは、このアルバムでの素晴らしい演奏を聴いてしまうと、もう一度、バリバリと弾きまくってもらいたいものですが、かなわないことなのでしょうか・・・。本当にもったいないですね。

遅ればせながら、久しぶりに昔テープに録音したものを聴いてみました。ワオ!16歳にしてこのトーン、ニュアンスが彼に”聴こえている”ことにあらためて驚きを隠せません。両方LPで持っているのですが現在聴けないことが残念です~。

>いちろさん
いらっしゃいませ。

本当に16歳と聞くとビックリです。あまりにすごくて、「もうちょっと子供らしくできないのか!!」といいたくなってしまいます。

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