« Yardbirds: Little Games | main | Donovan: Live in Japan »

April 19, 2006

●井上 陽水: II センチメンタル

YousuiInoue_sentimental.jpg

井上 陽水 (vo, g)
星 勝 (arr, g,)
安田 裕美 (g)
矢島 賢 (g)
竹部 秀明 (b)
高中 正義 (b)
稲葉 国光 (b)
田中 清司 (ds)
深町 純 (arr, p, key)
本田 竹廣 (p)
飯吉 馨 (p)

 ギターの入った音楽に没頭するようになったのは、井上陽水のアルバムを聞いてからだった。それ以前に、ギターに関心を持ったことはあったっけと、思い起こしてみると、小学校中学年の頃にさかのぼる。母親がある日、突然(のように私には思えた)ギターを買ってきたのである。たしかFujiというブランドのクラシックギターだった。
ShinichiMori_kage-s.jpg
 それと、多少前後したかもしれないが、一枚のレコードが我が家にやってきた。森進一の『影を慕いて』。古賀メロディーを若き森進一が歌い上げているものである。つまり、演歌のギターが、一番最初に原体験として刷り込まれたのだった。それでは、家にあったギターで演歌ギターの練習を始めたかというと、そうではなかった。とりあえず、手元にあったクラシックの教則本を見ながらポロポロと練習曲等を弾き始めただけだった。

 陽水の曲を初めて聴いたのもラジオからだった。『傘がない』というタイトルの曲は、まだ、学生運動や政治活動が盛んな時代に、彼女のところに行くのに傘がなくて困っているという内容の歌詞だった。当時は、社会問題について、関心がないこと自体が罪だと糾弾するような時代。その中にあって、社会で起こっていることよりも自分が傘を持っていないということを淡々と歌っていることが、あまりに衝撃的だった。
 一か月分のお小遣いを握り締め、レコード屋でシングル盤を買って、何度も何度も聞き返した。知り合いが、陽水のLPを持っているというので、借りてきてカセットに録音し、テープが伸びてしまうまで聴き続けた。当時、フォークのスターといえばまずあがったのがよしだたくろう。しかし、シンプルなコード進行に、直情的な歌詞をのせて、時には攻撃的に歌うたくろうは、がさつな感じがしてどうしても好きになれなかった。それに対し、陽水は、繊細で弱々しくはあったが、ディミニッシュコードなども用いたおしゃれなコード展開で、ギターのアレンジも秀逸、心の弱い部分を歌う独特の世界観に強い共感を覚えた。楽譜集を買ってきて、載っている曲を片っ端から練習したことは言うまでもない。

 このアルバムは、陽水名義でリリースした2作目。歌を邪魔せず、かといってきちんと存在感のあるギターのアレンジが実にすばらしい。陽水の歌声は、現在に比べるとはるかに繊細で、その歌詞から伝わってくる、今にも壊れてしまいそうな世界とぴったり合っている。陽水はある時期以降、カミングアウトをして、自ら屈折した部分を堂々と出すようになったが、この当時は、屈折したところを、自分でも疑問を感じながら、気持ちに正直に表現せずにはいられないという雰囲気が伝わってくる。歌詞は時として不条理なまでもの情景を述べる。『東へ西へ』での、”・・・電車は今日もすし詰め、(中略) 床に倒れた老婆が笑う・・・・”といった内容も、さらりと歌いながら、歌われているものはすさまじいばかりだ。当時は考えも及ばなかったが、今、改めてこの歌詞を読むと、まるでつげ義春のマンガにでも出てきそうな不条理の世界がイメージされるのは私だけだろうか。

 この頃のアルバムは、参加ミュージシャンのクレジットを見るのも楽しみのひとつ。星勝は元モップス(鈴木ヒロミツがボーカルをしていたグループ)で、陽水の初期からアレンジ全般を手がけている。その関係は現在でも続いているから、30年以上の長い関係というわけだ。リリースされたのが1972年だということを考えると、高中正義は成毛滋(当時は、グレコのギターを買うと、成毛滋のロックギター教則カセットか、竹田和夫のブルースギター教則カセットがついていたのが懐かしい)率いるフライド・エッグにベーシストとして参加していた時代なので、ギターではなくベースで参加しているのもおかしくない。深町純はその後、オールスターズというグループを率いて『オン・ザ・ムーブ』という名曲をヒットさせるし、本田竹廣(残念なことに、つい最近亡くなられた)は、フュージョンブームの中で、日本の旗頭となるべくネイティブ・サンを結成して一世を風靡する。
 これだけの実力派が脇を固めているので、やたら音を重ねているのではないのに、必要な音が必要な空間を満たしている。シンプルなスタイルの音楽が、ストレートに心に響く。

コメント

こんばんわ。
おーやさんの、ギター原体験なのですね。
陽水は、最近良く聴きますが、この頃の歌は、破壊的なベクトルが強い気がして、聴いていて少し、つらいときがあります。
少年時代に、のめりこむように聴いていたとは・・・。その事が私には衝撃的でした。

>純之助さん
いらっしゃいませ。

外に向うのではなく、内向的な壊れやすさを確かに感じますが、ストレートな分だけ、ほっとしたりもします。

中学2年までは、父親の不思議な教育方針で、わが家にはテレビがありませんでした。その分、音楽を聴くのと、本を読む時間はたっぷりありました。こどもの頃は、父親の方針に不満もありましたが、今となると、あの時間を作るきっかけをくれたことに感謝しています。
そんなこともあってか、周りの友達が聞いているものとはまったく違う音楽を聴く子でしたね。

陽水は、現在でも少しずつスタイルを変えながら、常に「自分」を持ち続けて、第一線で活躍していることは、本当にすごいことですね。

陽水も大好きで、「能古島の片思い」とか「いつのまにか少女は」なんてよく口づさんでいました。
ギターは、安田裕美──山崎ハコと結婚したのですよね。ステージでも共演しています。陽水の声にからむギターのオブリガードのセンスは抜群でした。

陽水が弾いていたので、当時ヤイリのギターを欲しいと思ったりもしましたが、トニー・ライスのように弾きたいと思った当時のわたしはトーカイのクラレンス・モデルを買ったのでした。
神田のカワセ楽器でヤイリとトーカイを並べて2時間ほど弾き比べた……。

陽水といえば、ラリー・コリエルさんともステージで共演していましたね。

圧倒的な陽水の「声」の存在感は、今でも輝いています。

>Nozomiさん
いらっしゃいませ。
安田裕美のギターは、歌もののバックとしては非常にいいバランスですね。でしゃばりすぎず、それでいて印象に残るフレーズ。

陽水はたしかS-Yairiを愛用していました。当時、国産ギターではマーティンのコピーモデルとして非常に評価が高く、憧れのギターでした。
ビジュアル的には、Guildのギターを持っていた印象が強く、ポール・サイモンにも憧れていたので、手持ちのヤマキのギターは、ピックガードをギルドタイプに替えてご満悦! だったことを思い出しました。

 陽水の話題ではなく恐縮ですが、先日山下達郎のコンサートに行き、最高に楽しめました。ファン歴は29年に及びますが、諸般の事情にて、今回初見参。
 達郎の声は、高級な楽器やオーディオみたいに、始めの内は硬い音がするのです。4曲目位からCDで聴く、「いつもの達郎」になって、後は乗り乗りです。
 大屋さんが達郎のファンでないとしても、音楽が好きな方なら、必ずや楽しめます。今回のツアーは完売したようですが、来年以降は毎年、何らかライヴを行うと話していましたので、是非。達郎も56歳と、いつまでこの声が出るか判りませんから。
 それと声量も大きく、妻曰く「ミュージカルスターみたいだった。」

>桃栗さん
いらっしゃいませ。
山下達郎はMaxellのコマーシャルで使われていたRide on Timeが印象に残った最初でしょうか。

コンサートをお楽しみになったようで何よりです。
私のほうは、最近はもっぱら小さいハコでプレイヤーを間近に感じるようなところに出かける機会が多いです。広い会場だと音響が気になってしまい(ポピュラー系でPAが入るといい音とめぐり合うのはかなり難しい)、よほど好きもしくは「今見ないともう二度と・・・」という気持ちがよほど強くないとなかなか足を運ぶことが出来ずにいます・・・。

 達郎は音にうるさいだけあって、PAは良い物を使っている プラス ミキサーのバランス感覚が良いので、今まで行ったコンサートでは圧倒的に1番良かったです。
 また新加入の24歳のドラマーが凄いです。彼は山下洋輔さんの所のメンバーだったそうですが、センス良し・若いから手数が多い・プロ慣れしていないから真剣そのものと、とても良かったです。

>桃栗さん
なるほど。確かに山下達郎は昔からレコーディング関連の特集などで取り上げられることが多い人でしたね。
「いい音」での演奏はなんとも嬉しいものです。

コメントする

(初めてのコメントの時は、コメントが表示されるためにこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまでコメントは表示されませんのでしばらくお待ちください)