main

January 31, 2007

●Steps: Smokin' in the Pit

Steps_smokin.jpg

Mike Mainieri (vib)
Michael Brecker (ts)
Steve Gadd (ds)
Don Grolnick (p, key)
Eddie Gomez (b)
渡辺香津美(g)

 残念なことに、昔からよく聴いていたプレイヤーの訃報を耳にすることがだんだんと多くなってきた。中には、「まさか、まだ若いのに」と思う人も少なくない。サックスのマイケル・ブレッカーもそんな一人だ。
 昨年、骨髄異形成症候群という診断が下され、予定されていたSteps Ahead(Stepsというグループ名は使用できなくなったためのちにSteps Aheadと改名した)のツアーをすべてキャンセルして、闘病生活を送っていたというマイケル。白血病へと進行することの多い病気で、マイケルは骨髄移植による治療を試みようとしていたが、特殊な型だったせいもあり、家族を含めドナーが見つからなかった。そして、残念なことに今年の1月13日、ニューヨークで亡くなった。一部には快方に向かっているという情報も流れ、レコーディングもおこなっているという話もあっただけに、本当に残念だ。

 私が音楽を聴くのに没頭していて、そして多感だった10代後半、アメリカを中心にジャズとロックを融合したようなフュージョンと呼ばれるスタイルの音楽が台頭してきた。そのとき、めきめきと頭角を現してきたのが、トランペットの兄ランディとテナー・サックスの弟マイケルの二人によるブレッカー・ブラザースであった。70年代後半から80年代初めにかけて、ニューヨークをベースにしているテクニシャンぞろいのプレイヤーたちと繰り広げるインタープレイは素晴らしいものがあった。当時、ラリー・コリエルに入れ込んでいたこともあり、彼とよく共演もしていたブレッカー・ブラザースの二人の演奏は、よく耳にすることになっていた。

 さて、そこでStepsである。リーダー格のマイク・マイニエリの元に集まった凄腕ミュージシャンによるユニットだけに、きわめて質の高い演奏が繰り広げられることは容易に想像できよう。
 実は、このSteps、ファーストと2枚目に当たるこのアルバムは、日本のみで当初は発売された。当時、フュージョンのプレイヤーにとっては聖地とも言える六本木のライブハウス、ピット・インでのこのライブでは、アルバム『トチカ』以来、マイクと親交の深かった渡辺香津美がゲストとして1曲参加している。とある雑誌に、当時を振り返って渡辺香津美がコメントしているのを見ると、プレイヤーたちにとってこのユニットがいかにすごいものであったかがわかる。

  このときは久々に胃が痛くなった(笑)。・・・(中略)ニューヨークの
  超第一線級のミュージシャンに交じって、マイニエリのバンドの
  一員としてベスト・プレイをしなければいけない。何がびっくりし
  たかって、早めに会場に行くとすでにマイケル・ブレッカーがい
  て、バリバリ練習している。こんな上手い人がマイニエリのツ
  アーでやるっていうので、必死にトレーニングをしている。すると
  今度はエディ・ゴメスがやって来て、弓で1~2時間基礎練習をや
  る。凄い人は準備も凄いんだよ。」

 テクニックのあるプレイヤーたちが、とてつもなく高い緊張感を持って望むライブ。いかに凄かったかは想像して余りある。もちろん、ユニットとしてはマイク・マイニエリがキーパースンなのは間違いないが、決してでしゃばりすぎず、かといってしっかりとユニットの音楽性をさせえているという点で、ドン・グロルニクの存在が非常に重要のように感じる。
 このアルバムはどの曲もお勧めだが、1曲を選べといわれれば迷わずラストのSara's Touchを上げたい。マイクが書いた名曲だが、マイケルのサックスの音が聴く人の心をがっしりと掴むスローナンバーである。

 最後に少し話をマイケルに戻したい。70年代後半、フュージョンを代表するサックスプレイヤーとして評価が高かった一方、4ビートのスタンダードなジャズはダメだろうと厳しい意見をいう人たちがいたことも確かだった。しかし、そんな声を吹き飛ばすかのように、Stepsでかなりジャズよりの素晴らしい演奏を披露し、さらには、80年代に入ってしばらくした後、チック・コリアとともに素晴らしい4ビートジャズの演奏を繰り広げていくことになる。こちらもいずれ取り上げることにしよう。
 サックスというとむせび泣くような情感たっぷりの音というイメージもあるが、マイケルは、決して感情に流されすぎることなく、常にクールな部分が残っていると感じさせるような演奏がとても印象的なプレイヤーだ。もちろん、ハードなブローもあるのだが、いわゆる泣きのフレーズなどは決して交えないのがとても潔い。
 ストレートアヘッドな、メインストリームのジャズを別にすれば、コンテンポラリーなスタイルのジャズは昔で言えば、フュージョンと呼ばれていた音楽の要素を何らかの形で含んでいたり、少なくとも影響を受けているものが多いと思う。そういった点から、ステップスというグループは、フュージョンという音楽をジャズの一つのスタイルとして結びつけた立役者といってもよいだろう。そして、ジャズでの花形がサックスであるとすれば、このユニットの音楽でマイケルが果たした役割の大きさは決して過小評価されるべきものではないだろう。

 息を引き取る2週間前にスタジオ入りをして遺作となるアルバムを完成させていたマイケル・ブレッカー。謹んで、彼のご冥福をお祈りしたい。

January 23, 2007

●Soig Siberil: Du Cote de Chez Soig

SoigSiberil_du.jpg

Soig Siberil (g)
Alain Genty (b)
Pierre-Yves Prothais (per)
Karl Gouriou (sax)
Camel Zekri (g)

 フランスのブルターニュのCDショップで一番良く目にしたギタリストの名前はソイグ・シブレルであった。70年代後半頃から、アイリッシュ音楽に接近をしていったソイグは、80年代に入ると、Kornogを結成する。ほとんどがブルターニュ出身のメンバーで構成されたKornogは、ブルターニュのケルト音楽にスコットランドやアイルランドのスタイルをうまく融合させ、ブルターニュを代表するグループとして高い評価を得るようになる。アルバム製作と並行して積極的にヨーロッパやアメリカのツアーを行い、ブルターニュの音楽を知らしめていった。

 Kornogでの活動を通じ、より深くブルターニュの音楽へと入り込んでいったソイグは、その後も様々なグループを編成して演奏活動を続けていく。その後、90年代に入ると、アコースティック・ギターを中心とした演奏をおこなうようになり、ギターのソロアルバムをリリースしていく一方、各地のケルト音楽フェスティバルなどにも積極的に参加していく。

 今回取り上げたアルバムは、2003年にリリースしたブルターニュ西部の町でのライブアルバム。アルバムのタイトルは「ソイグの家の方へ」といった意味だと思うが、このタイトル自体が、このユニット名になっているようでもある。ソイグのギターの音色は、ピエゾタイプのピックアップの音色が強いせいか、決していいものとはいえないが、ギター2本、ベースとパーカッション、それとサックスを加えた独特の編成による音楽は、アイルランド、スコットランドのケルト音楽とはまた異なる趣きのものでとても魅力的だ。特に、フレットレスベースとサックスが加わっていることが大きいのかもしれないが、とてもうまくジャズの要素を取り入れているように感じる。

 収録曲の約半数がトラッド、残りはソイグともう一人のギタリストキャメル・ゼクリのオリジナル。あいにく不勉強のため、トラッドに関しては原曲をほとんど聴いたことがないのだが、全編を通じ、5人によるグループの演奏スタイルが貫かれていて、最初から最後までスムーズに耳に入ってくる。

 フランス人でケルト音楽の影響色が濃いギタリストとしては、ピエール・ベンスーザンが一番知られていると思うが、素晴らしいギタリストはまだまだたくさんいる。アンサンブル・スタイルということでも含め、このソイグの演奏は非常に質の高いものと言って間違いはない。

 残念ながら、日本では彼のアルバムを入手するのは難しそうである。ジャケットの画像にリンクを張っているのは本アルバムの発売元のレーベルで、インターネット経由で購入できそうではある。ただ、日本に発送してくれるのどうかについては未確認なのでご注意いただきたい。

January 01, 2007

●本年もよろしくお願いいたします

本weblogも、立ち上げ当初は順調に書き込んでいましたが、途中で長いブランクがありました。
それでも、大勢の方に訪れていた抱いたこと、嬉しく思っております。
今年もがんばっていい音楽を紹介していくつもりですので、どうぞよろしくお願いいたします。

素晴らしい音楽とともに、すべての人が平和で穏やかに過ごせますように祈りつつ。


Ken Oya Acoustic Guitars 大屋 建