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April 20, 2006

●Donovan: Live in Japan

Donovan-Live_in_Japan.jpg

Donovan (vo. g)

 ドノヴァンは、60年代中頃に注目を浴びるようになったスコットランド出身のシンガーソングライター。彼に少し先立ってデビューを脚光を浴びていたボブ・ディランと何かと比較される存在であった。「アメリカのディランに対する、イギリスの回答」と、なにやら国を代表する存在にまで祭り上げられていたこともあったようだが、スタイルはまったく違うように思う。直情的なディランに対し、ドノヴァンは叙情的で、楽曲は牧歌的な雰囲気の漂うものも多い。一時期、ミッキー・モストプロデュースのもと、サイケデリックな方向へと歩み、『サンシャイン・スーパーマン』等のヒットを飛ばしたことjもあった。ロック色が強くなった頃は、レッド・ツェッペリンのメンバーや、ジェフ・ベック・グループのメンバーとレコーディングをすることもあった。しかし、シンプルなアコースティック・スタイルこそがこの人の真骨頂だと思う。

 ドノヴァンが、何よりも強く印象に残っていたのは、不思議なギターを持っていたからだ。このアルバムのジャケットでわかるように、サウンドホールは三日月型、真っ黒なボディに星がちりばめられたデザイン。一度見たら忘れられないものだ。
クラシック・ギターの世界では、いわゆる手工品と呼ばれる個人製作家ものがハイエンドのギターとして、普通に存在しているが、不思議とスティール弦では、個人製作家のものは見当たらず、楽器として評価が高かったのは、一部のメーカーのものだった。その中で、唯一、個人製作家として評価されていたのが、ドノヴァンのこの楽器などを製作した、イギリスのトニー・ゼマティスである。彼は、エレキ、アコースティック・ギターの両方を製作し、60年代半ばからギター製作家としての評価が高まり、イギリスのミュージシャンを中心に、彼の楽器を愛用するプロのプレイヤーが増えていった。デザインも含め、非常にユニークなギターで、今でもワンオフものとして市場での価値も高い。

 このweblogで紹介するものは、普段工房でかけている音源からというのが原則だが、このアルバムは、残念なことにCD化がされていない。それどころか、LPでリリースされたのも日本国内だけという、貴重なもののようだ。1972年の東京と大阪での公演から選曲されているが、ギター一本でヴォーカルとハーモニカのみ。とてもシンプルなサウンドである。曲によっては、ケルト音楽の影響が強く出ているものもある。時として、ディランのようにメッセージ性の強い歌詞もあるが、決して怒鳴るように訴えるのではなく、あくまでもきれいなメロディに載せて、切々と歌いかけてくる。ギターの演奏面でも、オープン・ハイ・コードと呼ばれる、開放弦とハイポジションを混ぜた音使いなどが時折あり、透明感のある歌声に実によくマッチしている。

 70年代の後半頃から、だんだんと表に出ての活動が少なくなり、ほとんど活動休止状態になっていたが、1996年には久しぶりのアコースティック・スタイルの新作『Sutras』を発表。その後も、リリースの間隔は長いものの、コンスタントの活動をしているようである。
 今年に入ってから、Try for the Sun: The Journey of Donovanという集大成的なCD3枚+DVDというボックスセットが発売されたり、5月には昔のライブ盤がリリース予定など、嬉しい動きもある。英国BBC放送では、今年の2月から3月にかけて、FOLK BRITANNIA SEASONというシリーズ番組で、1972年のライブ映像を放映している。貴重な映像の数々をアーカイブに持っているBBCならではだが、日本でもぜひ放送してもらいたいものだ。

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