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May 17, 2006

●Singers Unlimited, The: A Capella

SingersUnlimited_acapella.jpg

Gene Puerling (vo)
Don Shelton (vo)
Len Dresslar (vo)
Bonnie Herman (vo)

 サラリーマン時代、お世話になった先輩が定年退職を迎えたときのことである。60歳の誕生日が退職日となるのであるが、当時の直属の上司から、退職記念パーティの企画を取り仕切るように言われた私は、これまでのパーティとは違った内容を盛り込もうといろいろ考えた。なかなかいいアイディアが出ずに悩む日が続いたが、あるとき、パッと思いついたのがアカペラのコーラスだった。男性4部のコーラスで、ダーク・ダックスやデューク・エイセスのようなものではなく、もっとおしゃれな構成のものだ。
 「やはり、ジャズ・コーラスでしょう」ということで、なんでも理屈から入る私は、さっそくジャズ・コーラスの本を数冊買い込み、コンピューターソフトで和音をチェックしながら4声のパートを考えていった。誕生日ということなので、思いっきりベタな選曲で「Happy Birthday」。これを思いっきりおしゃれにするというのがこのときのテーマだった。
 さすがに経験したことのない世界だったので、なかなか進まない。ジャズ・コーラスグループの演奏も片っ端から聴いていった。もともとよく聴いていたManhattan Transfer(男声2、女声2)や、男性ジャズ・コーラスの新しいスタイルを完成させたというFour Freshmenなどは、アレンジをする上でとても参考になった。

 そんな中、繰り返し聴いたのがこのアルバム。女声が入っているので、直接自分たちのアレンジに取り入れたわけではないが、メロディラインに対する内声の動かし方などは本当に勉強になった。マンハッタン・トランスファーはインストもののオリジナル演奏を、ヴォーカルでフレーズ完コピという独自のスタイルを築いていた。フォー・フレッシュメンはとても端正な和音の積み上げで、もはやジャズ・コーラスのニュー・スタンダードといってもよいほど完成されたものであった。一方、シンガーズ・アンリミテッドは一曲の中でもリズムやコーラス編成の変化が豊かで、飽きさせない。ビートルズナンバーを筆頭に選曲もおしゃれで、複雑な和音を安定して聴かせてくれる本作は、アカペラコーラスを聴く際の導入部としても最適だろう。

 話を元に戻そう。
 何とかコーラス・アレンジを終えると、同じ研究室で音楽経験のある3人の先輩に声をかけ、それぞれ個人練習をしてもらった上で、仕事が終わった後の全体練習を重ねること数週間。何とか形になり、本番当日を迎えた。4人が皆、ブラックスーツに蝶ネクタイといういでたちでコーラスをお披露目し、暖かい拍手をいただくことができた。
 その後も、定年退職パーティーといえば、アカペラコーラスというのが続き、数回の出番があった。私は会社を離れ、コーラスに参加した先輩諸氏もそれぞれ偉くなって所属が変わってしまった今、あのアレンジで、あの歌を歌う人はいないのだろう。

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