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May 01, 2006

●ゲルニカ: 改造への躍動

Guernica_kaizou.jpg

戸川 純
上野 耕路
太田 螢一

 学生時代、一人暮らしをしているアパートの部屋に、あるとき友人のK君が一枚のレコードを持ってやってきた。レトロ調のジャケットデザインに「ゲルニカ」という聞いたことの無いユニット名。部屋にはレコードプレイヤーが無かったので、音楽好きの友人の部屋に出かけ、さっそく針を落としてみた。耳に飛び込んできたのは、昭和初期~戦後復興辺りの時期をイメージして作りこんだ音楽。他に類を見ないユニークさ。
 このときまで、私は戸川純のことをほとんど知らなかった。しばらくして、テレビドラマなどに出演している姿を見て、エキセントリックな雰囲気も含め、強烈な存在感が印象に残った。ただ、その演技の姿と、ゲルニカの歌い手としての姿はずいぶん印象が違う。演技では時として陰鬱な印象が強すぎる感もあったが、歌い手となると、時として朗々と、時として可憐なに、変幻自在の声色には、好き嫌いを越えてひきつけられずに入られないものを感じてしまった。
 K君とは学籍番号が近かったので、試験のたびに机を並べたが、あるとき、試験休みに旅行でも行こうかという話になった。お互いお金の無い学生だったこともあるが、彼が琵琶湖の湖岸近くの町の出身で昔から一度やってみたかったといっていた「琵琶湖徒歩1周」を敢行することになった。バイトの帰りに、大学近くの私の部屋にやってきたK君と、寝袋を背負って京都の街中を出発して、北上し、大原を抜けて「途中越え」というルートで琵琶湖の湖岸まで出る。そのまま、野宿をしながら3日かけて約210kmを歩いた。このアルバムをずっと聞いていたこともあり、二人で、「夢の山獄地帯」や「復興の唄」等を歌いながらひたすら歩く姿は、他の人からは異様に映ったかもしれない。無事に歩き終えて部屋に戻ると、足が腿の付け根から落ちてしまうのではと思うほど疲れきっていた。一息ついてテレビをつけると、当時マラソンの第一人者だった瀬古敏彦選手の様子を紹介しており、「瀬古選手は毎日70km走りこんでいます」と聞いて呆然。さらにどっと疲れが出たのはいうまでも無い。

 このアルバムのプロデュースには細野晴臣が参加。とても明確なコンセプトで作り上げている。ゲルニカとしては、この後に『新世紀への運河』『電離層からの眼差し』を発表し、いずれもユニークで質の高い音楽を聞かせてくれた。ただ、斬新さと完成度の高さでは、本作が一番ではないかと思う。戸川純も、『玉姫様』など個人名義での演奏や、ヤプーズというユニットでの演奏も面白いが、ゲルニカでは、非常に限定されたターゲットにすべてを集中させているのが痛快だ。

コメント

学生時代に録音したカセットテープ
今でも時折聴く事があります。
当時はじめて耳にしたときはかなりショッキングだった憶えがあります。
今聴いても妙な企画モノとは一線を画した作り込まれた安心感があります。

>いちろさん
いらっしゃいませ。

ここで取り上げているものの中では、「イロもの」的なアルバムだったので、ちょっとはずしたかなぁという心配はありましたが、良くぞ食いついてくれました。

「怖いもの聞きたさ」みたいな感覚がありましたが、今聴くと、椎名林檎率いる東京事変などよりも、数段「キレ
ている」すごさを感じます。それでいて破綻をきたしていないのは、細野晴臣氏の力もあるのでしょうね。

上野耕路&太田螢一両氏の対談を読むと、当時の日本国内ニューウェイブの雰囲気がわかって面白いですね。

ゲルニカ対談

ご存知の方もいるかもしれませんが、ゲルニカのライブ映像がYouTubeにアップされていました。

髑髏の円舞曲
http://www.youtube.com/watch?v=Wn9UeO9NDHs

銀輪は唄ふ
http://www.youtube.com/watch?v=o-TeFDIHBJA

恐れることなくゲルニカを体験せよ!!です。

レコヲドで聴きたいものですね

>いちろさん
蓄音機がよいでせう。

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