« Alex de Grassi: Southern Exposure | main | Noa & Gil Dor: Live »

May 11, 2006

●Charlie Mingus: Pithecanthropus Erectus

CharlieMingus_Pithecanthropus.jpg

Charlie Mingus (b)
Jackie McLean (as)
J. R. Monterose (ts)
Mal Waldron (p)
Willie Jones (ds)

 「怒れる黒人」というのが、全盛期のチャーリー・ミンガスのイメージだ。人種差別問題に対し、抗議の声をあげ、社会的なメッセージを含んだ曲を数多く作り、演奏をしてきた。ベーシストという性格もあるかもしれないが、ミンガスが目指したのは、集団即興演奏と呼ばれるグループ表現だった。アルバムのタイトルともなっている「Pithecanthropus Erectus(直立猿人)」では、この実験的な要素が、高いレベルで結実している。"進化"、"優越感"、"衰退"、"滅亡"と題された四部構成のこの曲は、たった5人で演奏しているとは思えぬ重量感にまず圧倒される。フリーフォームでそれぞれが勝手な方向に走り始めるかと思うと、破綻をきたす一歩手前で突然の調和が訪れる。その緊張感と安堵感の繰り返しこそが、ミンガスの強さをイメージ付けるものなのだろう。

 黒人のメッセージを世に発するジャズメンという点では、デューク・エリントンと対比されることも多いが、ミンガスの場合は、強烈な社会風刺と皮肉がこめられたメッセージとなって外に向うことが多かった。そのため、いろいろな面で敵も多かったという。さらに、大きな体から容易にイメージされるように腕っ節も強く、しょっちゅうバンドメンバーとも衝突をしていた。怒りながらピアノのふたをガチャンと閉め、ピアニストが危うく手を傷つけてしまいようになったり、トロンボーンプレイヤーの顔面を殴ったりと、その方面の話題には事欠かなかった。

 そんなミンガスもパーキンソン病を患い、晩年は大きな体を車椅子に沈めてすっかりと弱々しい姿となってしまった。最晩年には、当時のアメリカ大統領ジミー・カーターに声をかけられて、感極まって泣いている姿には、若き日の「怒れる巨人」の面影はまったく感じられなかった。しかし、このアルバムで地の底から響いてくるようなベースの音は、紛れも無いミンガスの力をわれわれに伝えるものだ。

コメントする

(初めてのコメントの時は、コメントが表示されるためにこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまでコメントは表示されませんのでしばらくお待ちください)